ユーフォニアムが吹奏楽コンで紡ぐ希望の旋律 熊本・八代白百合学園
波紋のようにホールへ広がる、グロッケンのはかなげな響きが彩る曲の出だし。トランペットの鋭い音が静寂を破り、会場は張り詰めた空気に包まれた。

波紋のようにホールへ広がる、グロッケンのはかなげな響きが彩る曲の出だし。トランペットの鋭い音が静寂を破り、会場は張り詰めた空気に包まれた。
23日に熊本市の熊本県立劇場で開かれた九州吹奏楽コンクールの舞台に、八代白百合学園高校(熊本県八代市)の部員55人の姿があった。
12分間の本番も折り返しを迎え、自由曲「ブリュッセル・レクイエム」(アッペルモント作曲)の終盤。ユーフォニアム担当の片山せれなさん(2年)は「未来に希望を持てるように」と、ソロの旋律を柔らかな音色で奏で始めた。
「ブリュッセル」は、あの日も白百合の練習場所で響いていた。
7月28日午後4時27分ごろ、片山さんらは九州大会出場をめざし、市内のホールでの練習を終えて片付けをしていたとき、地震に襲われた。16年の震災より激しい揺れを感じた。
舞台裏にいた部員らは、トラックに積み込むハープが倒れそうになるのを必死に押さえ、収まるのを待った。幸い誰もけがはなかった。
片山さんは熊本市の自宅になんとか帰れたが、家族の顔を見たとき、「明日から普通の生活を送れるかな」と気持ちはふさいだ。それから避難所や親戚の家に数日、身を寄せた。
白百合が練習を再開できたのは8月上旬。九州大会までの一番の追い込みの時期に、演奏のブランクは2週間にも及んだ。
地震から約1カ月、市内は猛暑が多く、今も断水が続く。鉄道など交通の足も元通りとはいかず、部員たちは保護者らに送り迎えをしてもらいながら、部活に通っている。
片山さんにとっては、音楽が救いだった。小学生で「温かくて優しいユーフォの音色」にほれ込み、続けてきた。「地震以来、久々に吹けてうれしすぎた」
顧問の服部明子教諭には、その喜びが痛いほど伝わった。「楽しそうに吹くこの子の姿には、音楽を引っ張る力がある」。ユーフォニアムの楽譜にないメロディーも、片山さんに任せることにした。
白百合が選んだ「ブリュッセル」は、ベルギーで起こったテロ事件を受けて書かれた。出だしで表現されるのは、平穏な暮らしが突如、混乱と恐怖にのみ込まれるといった場面だ。
でも、曲は終盤にかけて明るい響きを取り戻していく。その起点になるのが、ユーフォニアムのソロ。クラリネットなどが穏やかに旋律を奏でていく裏で、毛色の違う鮮やかなメロディーを吹き上げる。
服部教諭は曲が物語るメッセージに引かれ、部員らにすすめた。「希望を失わずにやり抜く曲に、みんなで挑戦したい」と伝え、春から表現を磨いて本番へ臨んだ。
片山さんは「希望に向かっていこうと願う人に寄り添い、『大丈夫』と背中を押す」イメージで、ソロを紡いだ。
複雑で速い動きを見せるフレーズが続く難所だが、苦手だった部分も音程を外すことなく「希望のメロディー」を丁寧に、うたい込めた。
それは、練習を重ねたから以上に、片山さんが「顔に描いてあるくらい」に音楽を好きだったからかもしれない、と服部教諭は思った。
曲のラストは、出だしと同じ旋律を全員で再び力強く奏で、最後の一音へ一気にたたみかけるようにかけあがった。会場から大きな拍手が湧いた。結果は銀賞だった。
片山さんにとって音楽は「人の心をつないだり、励ましたり、寄り添ったりする多彩な存在」だ。将来も音楽の道に進もうと考えている。
「『ブリュッセル』と似た経験をした私たちだから、音に乗せられた感情があったはずだと思います。決して良い経験ではないけど、この夏の記憶は忘れない。これからの生きる糧にしていきたいです」



